訪問看護ステーションよいとこは、“あなたの価値観を大切にし、あなたらしい暮らしを支えます。”を理念として掲げ、5つの基本方針を定めています。
①ご利用者様・ご家族の思いを大切にした看護を実践します。
②質の高い看護技術のご提供を目指します。
③素早く切れ目のない地域連携で暮らしを支えます。
④魅力あふれる人材育成を目指します。
⑤笑顔あふれる看護の職場をご提供します。
5回に渡ってこれらの方針についてお伝えし、よいとこの特徴を皆様にお伝えできればと思います。
第2回は「質の高い看護技術のご提供を目指します」についてです。
エピソードをもとに紹介します。
Aくんと「おふろ」のお話 〜医療的ケアと看護の力で叶えた
Aくんは脳性麻痺のあるお子さんです。生まれてからずっと、病院で過ごしてきました。人工呼吸器や在宅酸素、痰の吸引、24時間の経管栄養など、たくさんの医療的ケアが必要で、体は寝たきりの状態です。
1年以上の入院生活を経て、Aくんの状態が安定し、自宅での療養が可能になりました。ご両親は在宅での医療的ケアを一つひとつ学び、環境も整えたうえで、Aくんは1歳2か月で自宅に帰ることができたのです。
退院に向けては、医師、病棟・外来看護師、2社の訪問看護師、医療機器の業者さん、ご両親、地域の保健師さんなど、多職種で何度も話し合いを重ねました。安全に、そして安心して暮らせるよう、細やかな準備が進められました。
退院後は、2つの訪問看護ステーションが毎日交代で訪問し、Aくんの呼吸やお腹の状態、尿や皮膚のチェック、医療機器のトラブル確認、経管栄養・薬剤の投与の様子、さらにはご両親の体調や睡眠の様子まで丁寧に観察し、サポートを行ってきました。

そんなある日、お母さんからぽつりと、こんな声が聞かれました。
「Aくんを、お風呂に入れてあげたいんです」
これまで、自宅では体拭きや陰部洗浄、手浴、足浴、シャンプーを行ってきましたが、湯船に入ったことは一度もありません。実は入院中ですら、入浴できたのはたった3回。「お風呂に入ること」それはAくんにとっても、ご家族にとっても、長く抱いていた願いでした。
私たちはすぐに動き出しました。ご希望を叶えるため、まずは課題の整理から始めます。
• どんな物品が必要?
• どこで、どうやって入浴する?
• 人工呼吸器や吸引機はどこに設置する?
• 看護師は何人必要?
• 複数名で訪問できる日程は?
• 体温が下がると脈が遅くなってしまうAくん、本当に安全に入浴できる?
外来受診の際にご家族が主治医に相談し、自宅での入浴許可を取得。もう1社の訪問看護ステーションとも連携しながら、慎重に検討を進めました。
最終的に、入浴はキッチンのシンクで行うことに決定。最初は沐浴槽を使用していましたが、Aくんの体が大きくなってからは、ビニールシートをシンクに張って湯船代わりにする方法に変更しました。
吸引器はシンクのすぐ横に設置し、いつでも対応できるように準備。人工呼吸器は、当初は気管カニューレを押さえる看護師が背負っていましたが、緊急時に動けなくなるリスクがあるため、Aくんを抱っこする看護師が背負うよう変更しました。

看護の現場では、このような細かな判断や工夫の積み重ねが「質の高いケア」につながります。
Aくんのママ、ヘルパーさん、訪問看護師2〜3名によるチームでの実施が決まり、役割分担を明確にした手順書を作成。誰が読んでも理解できる内容にし、実際に当日担当する看護師で何度もシミュレーションを行いました。

そしていよいよ、本番。
緊張と汗まみれの看護師たちとは対照的に、Aくんは終始リラックス。トラブルもなく、無事に入浴を終えることができました。A君の体温が下がらないように暖められた室内は、まるで温室のよう。Aくんの穏やかな表情が、今でも忘れられません。

その後も、Aくんは入退院を繰り返しながら、自宅で過ごしている間は月に1回ほどのペースでお風呂に入りました。体が成長していく中で、お湯のため方や姿勢の工夫など、毎回ふり返りと改善を重ねながら…
Aくんとご家族の「お風呂に入りたい」という想い。その願いを、私たちは看護の力で形にしました。
ひとつひとつの支援が、ご家族にとっての「安心」と「日常」につながるように。これからも専門性と連携を生かしながら、質の高い看護を届けていきたいと思います。
